新版・体臭多汗の正しい治し方
デオドラント革命
Deodorant Revolution
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ISBN 4892954624 四六上製・240頁
五味常明 著 ハート出版(税込み)1575円
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16年間読み続けられたロングセラーのリニューアル版
人は誰でも悩みをもっています。仕事のこと、家族のこと、健康のことなど、生きていくかぎり悩みのない人はいません。人生とは悩みの克服過程ともいえるでしょう。そのような悩みを乗り越えようとする時、相談相手となってくれる家族や仲間、専門のカウンセラーの存在は大きな力となります。
しかし悩みの中には、人にも言えず、解決法も分からず、ただ一人で悶々と苦しんでしまうような性質のものもあります。自分の身体像に関する悩みには、特にそのような傾向があります。
ある青春の一時期に自分の容姿に劣等感を抱いた人は多いでしょう。でも、そのような悩みのほとんどは自然に消えてしまうものです。なぜなら、人は成長とともに、人生の価値や存在意義はもっと他にあることを知るからです。
ところが、同じ体に関する悩みでも、年月が経ち、社会生活の範囲が広がっていくにつれて、それだけ増大するような悩みもあります。
その代表的なものが、ワキガ臭などの「体臭」に関する悩みです。
自己の体臭で悩む人は、自分で自分のニオイが嫌だと悩むのでなく、「自分のニオイで他人に迷惑をかけている」と責任を感じて悩んでいるのです。いくら鼻が低かろうが、足が短かろうが、そのことで人に迷惑がかかると悩む人はいないでしょう。そのような言葉を人からかけられたとしても、不愉快ではあるけれど、自分のすべての人格が傷つけられたと感じるわけではありません。それは、外見のごく一部の属性を卑下されたにすぎないからです。
確かに、医学上ワキガは病気ではありません。ワキの下がにおうからといってもどこか痛いわけでもなく、そのことで死に至るわけではありません。しかし、自分の体のニオイが人に害を与えていると感じることほどつらいことはありません。真面目で誠実で、責任感の強い人なら、生きていること自体が苦痛に思えることでしょう。まして、人から面と向かって「クサイ!」とでも言われたなら、その場から逃げ出したくもなります。
それは「クサイ!」という言葉が、自分の全人格が否定されたような気持ちにさせるからです。自己のアイデンティティーの危機を招いてしまうのです。
多汗の悩みも同様です。汗で悩む人は、生理的な汗を自分自身で「汚い」と感じてしまい、そのことで「他人に不快感を与えてしまう」と自己嫌悪を抱いているのです。
ニオイや汗で悩んでいる人が、登校拒否や出社拒否を起こして、人間関係から距離をとり、社会から孤立してしまう傾向があるのは、自己の汗やニオイが他人から嫌われるのではないか、と先走りの不安を抱いて、自己の身体イメージを自分自身で否定してしまうからです。ですから、体臭多汗の悩みの行き着く先は、社会からの逃避であり、閉じこもりなのです。
そこに体臭多汗の治療の意味があります。
体臭多汗治療の目的は、単にニオイを消し、汗を減らすことではなく、そのことで消極的な「自己イメージ」を変革して、前向きで積極的な生き方ができるようにすることなのです。このような自己意識の変革によって社会性が回復されるならば、それは「デオドラント革命」と呼んでもよいでしょう。
長年、ニオイと汗の専門医として体臭多汗の治療をしてきましたが、このような体のニオイや汗で悩む人が近年急増しています。人間関係が希薄となり、デオドラント志向の強い現代社会を反映しているのかもしれません。
そのことを如実に表しているのが拙書「体臭多汗の正しい治し方」(ハート出版)という1冊の本の読まれ方です。この本の初版は、16年も前のことです。そして既に20回近く増刷されてきました。このような地味な内容の本が、かくも長期にわたって読まれてきたこと自体が、体臭多汗で悩んでいる人がいかに多いか、を物語っているのです。
16年の間には、患者さんの数の増加のみならず、悩みの質も変化しています。たとえば、近年はワキのニオイだけでなく、頭や足や陰部など他の部分のニオイに悩む人も増えています。さらに体臭だけでなく、手のひらやワキの多汗で悩む人も多くなっています。また実際はにおっていないにもかかわらず、「自己臭」的に悩んでいる人が増加しているのも最近の特徴です。
このような悩みの多様性に対応するためには、治療法も多様とならざるを得ず、その人に合った正しい治療法を選択することが大切となります。
今回の改訂版では、加齢臭やダイエット臭等の新しい話題を大幅に加筆しています。この本を「革命」を指南する本、などと大げさに捉えなくても、体のニオイを健康のバロメーターと考えた健康書、として読んでいただくのもよいでしょう。
さらにこの本では、体臭多汗の最新の治療法も紹介しています。治療法の選択肢の幅が広がったことで、自分に最も適した解決法を見出しやすくなったと思います。
読者の方々が、自分の体に対するマイナスイメージが変革されて、将来前向きで積極的な生き方ができるようになるなら、著者としてはこの上ない喜びです。
しかしです。私が体臭で悩んでいる読者にまず最初に選択していただきたい治療法がひとつあります。
それは、「何もしない」という治療法です。正確に言えば、「医学的」には何もしない、ということです。
その代わりにしてほしい「無血革命」があります。それは、この本を読んで体臭多汗の悩みの本質を汲み取ることです。行き過ぎた無臭志向は自己否定につながります。ニオイや汗をことさら消し去ろうとするのでなく、自己の個性の一部として受容するのです。
自己の体臭を「生活臭」として受け入れ、他人の体臭とも共有し合える関係。この本がそのような「静かな革命」によって、生活臭の感じられる豊かな人間関係を築くための一助となることを願ってやみません。
…はじめにより…
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