投稿者名:五味院長
タイトル:ボトックスの腋下多汗症への治療が可能となりました
ハニービーさん。あなたのケースについては後で説明するとして、まずボトックスについての一般的な話からさせてください。
当院では、腋下多汗症への応用は今まで治験期間として慎重に検討してきましたが、3月より実際の治療に応用することになりました。
しかし、その適応は「精神性発汗型多汗症」のみに限定しています。
その理由は、腋下の多汗症には、アポクリン腺型(わきが型)、エクリン腺型(精神性発汗型)および副乳多汗症とがありますが、わきが型と副乳多汗症は、手術療法が非常に効果があり、80%〜90%の汗が1回の手術により永久に抑えられるからです。
ところが、精神性発汗の原因であるエクリン腺は、皮下直下から皮内に分布しているため約半分程度しか摘出できず、手術の効果は約50%〜60%と限定されていました。
一方、ボトックスは、わきが型にはあまり効果がありませんが、精神性発汗型には非常に効果的があります。患者さんによれば、70%〜90%の汗が減少したと言う人もいます。その理由は、わきがの原因であるアポクリン腺はアドレナリンが放出されることで活動し、精神性発汗のエクリン腺はアセチルコリンを放出します。ボトックスは、この神経末梢からこのアセチルコリンの放出を選択的に抑制することで汗を抑えるからです。
効果の持続期間については、従来、3〜4ヶ月間くらいということでしたが、注射の部位の工夫で半年以上持続することも分かりました。
さらに、当院での治験では、精神性発汗の人では、1回の注射でボトックスの作用が消失する半年以降も汗がもとに戻らず、減少したままの人がかなりいることが分かりました。つまり1回の注射で多汗症が「治癒」する可能性もあるのです。
これには理由があります。
それは精神性発汗の原因である「予期不安」がなくなったからです。
汗の減少という実体験を通じて、「また汗をかくにではないか」という汗を予想する不安が、「注射をすればいつでも汗は抑えられるのだ」という自信に変わったからです。
そのような自信が、汗以外の何か違う価値へ意識を向かわせ、さらに予期不安が減少するという好循環をもたらしたのです。一種のロゴセラピー様の結果を招いたとも言えるでしょう。
また、腕の重量感やしびれ等の症状についてですが、注射の量と注射部位によりかなり改善されることも分かりました。
腋の場合には通常50単位ずつを注入しますが、皮下ではなく皮膚直下と真皮の下層に注入することで、より少ない量でより大きい効果が期待できます。
さらに、「ボトックス」というのはアメリカのアラガン社の商品名ですが、アラガン社製のものでは、そのような症状が少ないことも分かりました。同様の製品で中国製のものは、安価ですが、ゼラチン等の不純物が含まれてるという話も聞きますし、実際メールで症状を訴えた人に聞くと、アラガン社製以外の製品を使用している病院で治療を受けた可能性も否定できませんでした。
当院では、安全を優先して、非常に高価ですが、アラガン社製のものを使用することにしました。
しかし、どの製品を使用するつぃても、ボトックスの効果と症状の出現は、人により非常に異なるため、まず片方の腋で少量から始めて、効果と症状を十分観察してから両腕に量を増量するといった段階的な使用法の工夫も必要でしょう。
以上がボトックスについての一般的な説明ですが、ハニービーさんの場合にはメールからでは不明ですが、耳垢は湿っているでしょうか?
仮に、耳垢が乾燥している場合には、今説明した精神性発汗型の可能性が高いので、ボトックスを結婚式の1ヶ月くらい前に1回だけ受けるのもよいでしょう。結婚式が終わり、家庭の主婦となり、育児や炊事洗濯などでいそがしい日々を送れば、自然と汗に対する関心がなくなり、精神性発汗が消失することも期待できます。
また、耳垢が湿っていて、わきが型との「混合型」では、手術が効果的ですが、それ以外では電気凝固法を併用すると、アポクリン腺の汗とニオイを「ある程度」抑えることも可能ですし、永久脱毛も兼ねることができます。
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