わきが・体臭・多汗 ミニコラム
失禁…痴呆の場合
五味クリニック院長
五味常明
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痴呆の失禁ケアは大変です。
たとえ膀胱が健康であっても、トイレの場所を探し当てることができなかったり、見当違いの方向へ行ってしまったり、洋式便所の使い方を間違えたり、トイレに行くことに関心がなくなったりして、部屋の隅や廊下、風呂場、布団の上など所構わず放尿することもあります。
こうなると家中が糞尿のニオイにまみれ、家族にとっては最もつらい状態になります。
こうした状態が続くと、もうこれ以上の垂れ流しは御免だという思いや、排尿介助もしきれなくなっておむつや失禁パンツに頼りたくなります。
大切なのは、それらの使用のタイミングです。そしていざ使うとしたら介護用品の選択です。できるだけ消臭効果の高い防臭加工を施したもの(ダイアバーなど)を使用するべきです。
なぜなら人間の五感の中で、一番衰えにくいのは嗅覚です。たとえ痴呆になっても、嗅覚はそのままですから、私たちが臭いと感じるものは失禁した本人にとっても臭いのです。
そこで防臭加工のしていないおむつをつけたらどうなるでしょう。いつどこでもオシッコをしてもよい状態になるわけですから、オシッコに対する意識も薄れます。しかもおむつを通して絶えず尿のニオイを嗅いでいることで嗅覚が疲労して慣れてしまいます。
これを嗅覚の順応といい、感覚の最後の砦であった嗅覚まで麻痺することで、結果的に痴呆の進行が進んだり自発性が萎えてしまうのです。
認知能力のある高齢者が自分から失禁パンツの使用を希望する場合にはその意志を尊重してあげることがよいでしょう。しかし、痴呆性高齢者のおむつ使用の時期の決定はそう容易ではありません。本人の納得のいかないままにおむつをあてがうと自尊心を傷つけ、さらなる知的機能の低下を招くこともあるからです。
一般的には「オシッコをしたい」という感覚、つまり尿意があるかどうかが目安となります。痴呆性高齢者の場合、一見尿意がなくただ垂れ流しているように見えても、実は尿意を自覚しているのにそれを言葉でうまく伝えられないことが多いのです。でもよく観察すると、足をモゾモゾさすり合わせたり、腰を浮かせたり、何かを探す様子や、顔の表情を変えたりといったさまざまなサインを出していることがあります。
たとえおむつを着けていたとしても、そのようなときにはタイミング良くトイレに誘導してあげることが自立性の低下の予防に大切です。
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