わきが・体臭・多汗 ミニコラム
足のクサイ人は優しい
五味クリニック院長
五味常明
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梅雨明けの7月、セミ時雨の昼下がりをA君が歩いています。
なにかぎこちない足取りは、それもそのはず、今日は、プロポーズしたB子さんのご両親と初の顔合わせなのです。はぁ、と吐息交じりに立ち止まり、ノロノロ歩き出しては入道雲を仰いで立ち止まり……。
普段から真面目で何事にも気配りするA君は、お父さんとの会話がとぎれぬよう、プロ野球から大相撲、釣り、ゴルフ、競馬、向こう一週間の天気予報まで、あらゆる話題を「予習」してこの日に臨みました。
しかしA君には、大きな心配事があります。他人には言いにくいのですが、彼は足がクサイのです。これまでのB子さんとのデートは、座敷のないところばかりを選んで切り抜けてきましたが、今日ばかりはどうなるでしょうか?
洋間ならまだしも、もし和室に通されたらどうしようか?
そう思っただけで、この瞬間にも、足の裏からじわっと、汗がにじんでくるようです。
はぁ…今度生まれてくるときは、人魚になろう…。
まずはA君に、エールを送りましょう。
「足のクサイ人は、心が優しいんだよ」
A君、聞こえたかな?
では、いまからその定義を説明しましょう。
そもそも足は、どうしてあのように臭うのか?
第一の理由は、足には、ニオイの素材がとても豊富だということです。
足は、体のどこよりも角質層が厚く、その表皮細胞が新陳代謝や摩擦で剥げ落ちて大量の垢になります。その成分は主にタンパク質で、ここに皮脂腺からの脂質が混ざり合えばニオイ天国(地獄?)です。
表皮ブドウ球菌やコリネバクテリウムといった細菌が小躍りして分解を始めます。靴下のすえたニオイは、こうしてできたイソ吉草酸などの低級脂肪酸のニオイなのです。
第二の理由は、足をとりまく環境にあります。
人間は、毛のない猿です。そのせいか、体を覆いたがります。なかでも足は靴下やストッキングの上からさらに靴やブーツをかぶせるわけですから、当然足の温度は上がりますし、汗も蒸発せずにたまります。これでは細菌のために適度な温度と湿度を提供しているようなものです。
大量の汗をかけば、これは湿度などという生やさしいものではなく、ムレの状態です。こうなると、皮膚の角質層はさらにボロボロ脱落してニオイが強くなります。
足のニオイの元凶は、この「ムレ」にあるのです。
しかも足の裏は、手のひらや額と並んで、最も汗腺が密集した場所です。1センチ平方に三百近くある汗腺から多量の汗が出て、それが靴下や靴に密封された環境で、汗の成分の重炭酸イオンが急増します。この重炭酸イオンはアルカリ性ですから、酸性を嫌う細菌にとっては、最高のお膳立てです。
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