わきが・体臭・多汗 ミニコラム
口のニオイ
五味クリニック院長
五味常明
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あなたは自分の体の、どの部分のニオイが一番気になりますか。
女性雑誌や化粧品会社がそんなアンケートをとると、おおかた一位は口臭だそうです。とりわけ他人の口臭が気になったとき「自分はどうなんだろう?」と心配になるとのこと。さもありなん、と言えるアンケート結果ですね。
なにしろ人間は二本足で立つ動物です。お互い向かい合えば口と鼻はお見合い状態になって、アナタの口のニオイはワタシの鼻にスイスイ飛び込んできます。しかも口臭を出す側は意外と自分のニオイを気づかないものです。それは前回お話ししたとおり、嗅覚は疲れやすいのでいつも嗅いでいるニオイには慣れてしまうからです。こと口臭に関しては「人の振り見て我が振りなおす」というわけにはいかないところが、口臭のトラブルの尽きない所以です。
しかしここで申し上げておきたいのですが、口は臭って当たり前なのです。なにしろ人間は、生きるために食べたり飲んだりします。空気も吸います。いろいろなものが入ってきます。入るだけではありません。肺が吐き出す息や痰、胃のゲップなどの出口でもあります。南船北馬の波止場のように朝から晩まで出入りで賑わう場所ゆえ、臭いはつきものなのです。
それでもやっぱり口臭は嫌です。なんとかしたい。口臭のなんたるかを知りながら攻略法を考えましょう。
たとえば、どんなときに口は臭いやすいのか?
ギョウザやニラレバ炒めを食べれば口が臭うのは当然ですが、それ以外にも口臭には「においどき」というのがあります。それは朝の起き抜けや空腹のとき、そして緊張したときなどです。
なぜなら、この「においどき」になると口の中でニオイを抑える仕組みが手薄になってしまうからです。その仕組みについてご説明しましょう。
そもそも口の臭いは、唾液と深い関係があります。もともと唾液には殺菌力があって、口の中の雑菌の繁殖を抑えて口臭を防いでいます。もう少し詳しく説明すると、唾液のなかにはリゾチームという酵素があって、それが細菌の細胞壁を溶かして殺してくれるのです。生き残った雑菌も唾液の中に溶けてしまいます。あとはゴックンと飲み込まれて胃に落ちればハイそれまで。胃の中は強い酸性ですから、ほとんどの菌は死んでしまいます。つまり唾液のおかげで、本来はものすごいニオイ王国であるはずの口の中が、「公衆」の迷惑にならない程度にほどほどに抑えられているのです。
ところがこの唾液が、起きたばかりや空腹のとき、緊張したときには減ってしまいます。これが「においどき」の原因です。ですから口臭を抑えるには唾液を盛んに出すことです。まず朝は、朝食抜きで家を出ないこと。食べるときは黙ってモクモクでなく、楽しくおしゃべりしながら食べる。緊張するようなことを考えずに、リラックスして一日を迎える。そして食後は必ず緑茶や紅茶などでブクブク口の中をゆすぐこと。そのお茶は飲んでも出してもよろしい。
口の中は温度が高いので食べて一〜二時間も放っておくとカスが発酵してきます。それを防ぐには食べるたびに歯磨きをすれば理想ですが、うがいだけでもじゅうぶん口臭の予防効果はあります。それでも気になる人は市販の洗口剤などを使って口をゆすげばよいでしょう。
さらにそれでも口臭があるときは、体や歯になにかの異常があっての口臭とも考えられます。まず疑うべきは虫歯です。口の悪臭の主成分はたんぱく質が腐ったり分解されたりしたものです。これは揮発性硫化物といって、イオウ成分を含みながらなおかつ気体になりやすい性質があります。虫歯になるとこのたんぱく質を分解する酵素を出す嫌気性菌が常時歯の中に住みつくわけですから当然臭います。しかもこうした細菌が異常に増えて、特に歯茎の下の歯根部分まで侵されてしまうと昼夜なく悪臭を放つようになります。
歯周病のときにもニオイは強くなります。この場合には歯と歯茎の間にプラーク(歯垢)がたまり、そこが細菌の住みかとなります。さらに歯周病が進むと出血しやすくなり、そのときに腐敗した血液もニオイの原因になります。
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