わきが・体臭・多汗 ミニコラム
劣等感のメカニズム
五味クリニック院長
五味常明
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悩みと欲求不満の関係について、もう一歩立ち入って考えてみましょう。
たとえば、あなたが無人島に一人で住んでいたとしても、飢えや乾きを感じれば欲求不満はおこります。しかし、たとえば「鼻が低い」「足が短い」といったことで悩むことはないでしょう。悩みとは、他人と自分を比べるなかでこそ生まれるものだからです。年収四百万円の人が不景気をぼやきつつ同窓会に出て、旧友が皆年収一千万円だったりしたら、その人は悩むことでしょう。しかし、旧友の皆が同じ四百万円であれば、世間はそんなものかと思いこそすれ、悩むことはないでしょう。
悩みは、欲求ばかりでなく、ときには劣等感にもつながります。
なぜなら、人間の欲求には「〜をしたい」というだけでなく、人それぞれに「〜までしたい」という目標がついてくるからです。「テストで良い点を取りたい」だけでなく、「80点以上とりたい」といった具合です。心理学ではこれを「要求水準」といいます。この要求水準が高いか低いか、その程度が劣等感に深く関わります。
たとえば、同じ80点でも要求水準の90点のA君と60点のB君とでは満足度に違いがあります。A君は失敗感を味わい、B君は成功感を味わうからです。
テストの点数を例に説明しましたが、実際にはこの要求水準は、自分自身でなく、むしろ他人に対して立てられることが多いのです。つまり、他人に勝ったか負けたか、他人より優れているか劣っているかという感情のほうが劣等感を招きやすいのです。そして劣等感とは、○○さんにはどうせかなわないだろうと、行動する前から敗北感を先取りしてしまう引け目の感情にほかなりません。「先取り」の感情であるからには、その劣等感は本人の主観に過ぎず、実際劣っているかどうかとは無関係な、本人の思いこみに過ぎないのです。
体臭もしかり。ただの人並みの汗かきなのに、自分の体臭は他人より強いのではないか、と頭の中で他人と比べて、自分で自分をおとしめて悩んでしまうのです。
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