投稿者名:五味院長
タイトル:まず「ワキガ臭」のトラウマから開放されること
ニッキーさんのご質問には複数の話題が含まれますので、
そのつどお答えを書かせていただきます。
先生はじめまして。今日も患者さんの診察お疲れ様です。
今回初めてメールをさせてもらいます。私は29才の女性です。
毎日泣いて、泣いて、考えて、先生のHPにたどりついて、先生に手術をしてもらおう思い、今日新宿の病院に電話をしました。
私としては一刻も早く手術をしたかったのですが、やはり手術前にカウンセリングだけで一度来院して欲しいとのことでした。
このことは私もHPを見て知っていましたし、私にとってもその方が良いと思います。
ただ、私は東海地方に住んでおり、東京に何回か行くのは時間的にもきつかったので大阪でカウンセリング、新宿で手術は可能ですか?と聞いたところ、それでも大丈夫ということだったので、さっそく大阪の病院に電話をしました。
しかし、先生は多忙とのことでカウンセリングは来月の末になってまうようで。
受付の方が、メールで直接先生にご相談された方が早いですよと言ってくださったので、今、こうして先生にメールでお話をきいてもらっています。
【院長回答】-----------------------------------------------
あなたが真剣に手術のことを考えられていることは分かりました。また今まで臭いのことで本当に辛い経験をされたことも十分理解しました。
臭いの治療は、悩みの治療と同じです。
以下の質問には、あなたの悩みをどのように解決することが、これからのあなたの人生にプラスになるかという観点から考えてみましょう。
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前置きが長くなってしまって申し訳ないです。
私の母、母方の祖母、弟と私が腋臭です。4人とも耳垢は湿っています。
私の場合は常にネバネバしています。
自分が腋臭だと気づいたのは小学5年生の時でした。休み時間に校庭で遊んで汗をかき、下敷きであおいでいた時、隣の男の子に「お前臭いぞ」と言われました。
その時は自分ではなぜ臭いといわれるのかわかりませんでした。自分では何もにおわなかったので。その事を母に話したとき実は・・・と腋臭のことを打ち明けられました。
それからどんどんと消極的になっていきました。
【院長回答】-----------------------------------------------
耳垢が湿っているということからあなたがワキガ体質ということは事実であり、多分お母さんは、ご自分もワキガ傾向があることから、そのことは知っていたのでしょう。
でも小学校5年生の女の子のあなたにとって、そのことを打ち明けられた時のショックは言葉に言い表せないほどのものあったでしょう。
本来、体の匂いなどというものは、遊び盛りの子供たちにとっては、単なる「生活臭」であり、単なる汗の匂いであり、元気な証に過ぎません。 ところが、日本の社会は、古来から清潔志向が強く、匂いに対して敏感な民族であり、特に「ワ・キ・ガ」というニオイに異常な嫌悪感をもっている社会なのです。
お母さんから発せられたこの3つの文字が、あなたの小さな心に大きなトラウマを与えたとしても不思議ではありません。
またそのトラウマがあなたの明るかった性格をどんどん消極的にしてしまったとしても無理はなかったでしょう。
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社会人になってしばらくして、職場で腋臭の臭いを充満させて周りの人に嫌な思いをさせてしまったらと思うと恐ろしくて(すでに友達や周りの人は気づいていたとは思うのですが、そう思いたくない自分もいました)、吸引法(?)の手術をしました。でも、手術をした当日でもかすかにガーゼの下から臭いがしました。そして後から気づいたのですが、わきの下の一部分の神経が切れたみたいです。触っても自分の肌じゃないような感じがするんです。すごくショックでした。
その後、転職してあまり人と会わない事務の仕事で、腋臭のことはあまり気にはしていませんでした。
汗をかくと臭ったりしましたが、こまめに汗をふき取ったり、人と会うときはすごく神経をつかいましたがあまり人と会わなくなっていったので、今ほど悩みはしませんでした。
【院長回答】-----------------------------------------------
人間にはさまざまな悩みがありますが、腋臭の悩みの特徴は、自分の体臭が嫌だと悩むのではなくて、他人に迷惑をかけるのではないかと責任を感じて悩むことです。
ですから、臭いの悩みの最も消極的な解消法はあなたが選択したような「自分を他人から遠ざける」というです。
しかし、この方法は楽ではあるけれど、往々にして逆効果をもたらす危険性があります。なぜなら、人は社会から引き込めば引き込むほど、その後、ますます人の「目」や「鼻」が気になるようにできているからです。
もうひとつの解決法は、かなり積極的です。
それは「臭いそのものを消す」ということです。
この方法は、その結果、「もう大丈夫」という自信がもたらされるならば、非常に有効な方法です。
手術により物理的に臭いを消そうというあなたの選択は決して間違いではなかったでしょう。
ただ、残念なことに、あなたにとってはその手術法の選択が適切ではなかったかもしれません。
なぜなら、幼少時に「ワキガ臭」というトラウマを受けたあなたにとっては、ワキガ臭「そのもの」を100%消去することによって初めてそのトラウマから抜け出せるのであり、「ワキガ臭を減少」したり「軽減」することだけでは、あなたの悩みの直接的な解決法とはならないからです。
腋臭は、アポクリン腺という汗腺が1粒でも残れば、かすかではあるけれど、術後同じ種類の臭いがします。
私は吸引法が手術法として問題があると言っているのではありません。ある程度まで臭いを抑えればよいという人には十分意味のある方法でしょう。
しかし、「ワ・キ・ガ」という3つの文字にとらわれているあなたにとってはやはり100%の結果によってのみ自分自身に「自信」が持てるのであり、トラウマからの脱出も可能となるのです。
ですから、あなたにはやはり完治の可能性の高い方法を選んでほしかったと思います(五味法がよいという話ではありませんので誤解しないでください)。
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1年くらい前から、仕事を変えて電車通勤で比較的人数の多い会社で働き出したのですが、1時間ごとにトイレに行って汗を拭いて、制汗剤を塗ってと気をつかっていたのですが、仕事で緊張したり、生理中はすごく臭ってきました。トイレにいく度に洋服の脇の部分の臭いを確かめるのですが、時間がたつにつれて臭ってきます。ふとした腕の動きで自分の臭いに気づく時もあります。
【院長回答】-----------------------------------------------
この段階では、手術で残存したアポクリン腺が活動して臭いを出していた可能性があったのでしょう。
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会社から駅まで歩いただけで汗をかいて、地下のホームで電車を待っていた時、前にいた女の子たちに、「なんか、ここ臭くない?」「後ろの人・・・」「うそ?マジで」とじろじろと面と向かって顔を見られました。そこで言い返せない自分の立場が今思い出しても死にそうにつらいです。何が一番つらいかというと、私は臭いにはすごく敏感な方なのに、自分の出している臭いがわからないということです。分かるときもありますが、風に乗って周りに漂う臭いは自分ではわかりません。それがすごくショックなんです。人に不快感を与えているのにそれが分からないのは本当につらいです。
【院長回答】-----------------------------------------------
ここからは腋臭という身体問題とは異なるもう一つの 「臭い問題」が生じています。
今までは少なくとも、あなた「ワキガ臭」というものを自分自身の中で、自分の体の問題としてのみ解決しようとしていました。
しかし、今、あなたの問題は、あなたの体から離れて行くのです。
つまり、あなたにとっての「臭い問題」はワキガ臭という体の「部分問題」から、自分の臭いで人に「嫌われているのではないか」という「全体の問題」にまで発展してしまったのです。
言い換えれば、自分の「存在」が他人に「不快感を与えている」のではないかというあなたの人格までを否定する悩みとなってしまったのです。
この時点で、あなたのニオイはあなたの「腋から」だけではなく、あなたの「心の中」でも臭うようになってしまったのです。
このような状態を医学的には「自己臭妄想」と呼んでいます。
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そして、最近好きな人ができました。でも、腋臭の臭いが気になって近づくこともできません。
その人に会うとすっごく緊張して汗が出てしまうから。
最近気づいたのですが(先生の病院のHPでも確か載っていましたが)、緊張した時に汗をかくとすごく臭いがでてきます。
この前その人に勇気を出して話しかけたとき、妙な距離を置かれて会話をしました。その時はやっぱり汗をかいて洋服の脇の部分が臭っていました。一生懸命洋服もウエットティッシュでふき取ったんですけど、臭いって濡れている方が臭いますよね。多分すごく臭っていたんだと思うとショックで。
【院長回答】-----------------------------------------------
さらに、臭いの問題に、もうひとつの厄介な問題があなたを襲います。
それは「汗問題」です。腋の汗は、暑くなると汗をかくという温熱性発汗だけでなく、緊張したり、臭いを気にすると汗をかくという「精神性発汗」が盛んな場所です。
メールの内容から推察できますが、あなたは非常に思いやりもある人です。
他人の存在を大切に思う人です。
そのような心のやさしい人が陥りやすいのが、この精神性発汗なのです。
つまりあなたは好きな人の前で「心で臭う」だけでなく、「心の中」にも汗をかいてしまうようになったのです。
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今まで、いろんな嫌なこと、つらいことを経験してきましたが、なんとか前向きに頑張ろうと今まで生きてきました。
でも、腋臭ということが常に足かせとなって今一歩前に進めない自分がいます。自分が腋臭だということを誰にも相談できません。好きな人ができても告白もできません。
私は人並みに恋愛もできないのかと最近ずっと毎日、毎日泣いています。今、一人で生きていくため資格を取ろうと勉強しているのですが、勉強も、仕事も手につきません。
でも、こんなことじゃ前に進まない。悩んでいても仕方がない、やっぱり手術をしようと思いました。
ただ、前回のことがありすごく怖くなってしまって・・・。先生のHPを読んでいるうちにどうしてもって早く再手術を考えていろいろ調べなかったのかと後悔しています。
【院長回答】-----------------------------------------------
辛いことを言うようですが、「今現在」のあなたにとって、再手術は、あなたの悩みの根本的な解決法とはならないでしょう。
その理由は、今のあなたの悩みが、すでに腋の下の問題から離れて心の問題になっているからです。
まず最初にメスを入れなければいけないのはあなたの心の姿勢です。
あなたは、「恋愛もできない」「勉強も手につかない」といった今の消極的な生き方の原因を、「ワキガ臭のせい」であると考えているでしょう。
あなたのそのような心の持ち方は、臭いに責任を押し付ける姿勢、つまり「臭いへの逃避」なのです。
このような逃避の姿勢があるかぎり、どのようなワキガ手術も無効でしょう。
なぜなら、ワキガ手術は、ワキガ臭を治すだけだからです。
あなたの腋を手術しても、他人の花粉症は治りません。
あなたの腋を手術しても、風邪を引いている人に「くしゃみをするな」「咳き込むな」「ニオイの話題をもちだすな」とは言えないでしょう。
つまり、あなたの腋を手術しても人の態度やしぐさは変わらないのです。
今あなたに真に求められることは、まず「ワキガ臭」のトラウマから開放されることです。
「体臭」というものを自分自身の個性であると認めることです。拒否するのではなく受け入れること、受容することです。
そのために絶対に必要なのは、あなたの辛い気持ちを打ち明けることのできる誰かです。本心から相談することのできる人です。
誰かに悩みを共有してもらうこと、そしてお互いの体臭も共有しあえることによってのみ、あなたの腋臭は、心問題から腋という部分問題にまで戻すことができるのです。
あなたは私にこのような長い(?)相談メールを書いて、30%くらいはすっきりしたでしょう。
そこで提案ですが、
その相談をまず好きになった彼にするというのはどうでしょうか? 愛する人に自分の最も深い悩みを打ち明け、その結果、彼が手術を勧めてくれるようなら、その時あらためて再手術のことを考えるのもよいでしょう。
腋という身体的部分問題に戻った「ワキガ臭」なら私が責任をもって完治させましょう。
ただし、その手術にも条件があります。
それは、「片方づつ」行うということです。
あなたの以前の手術は吸引法だったようですから、多分、アポクリン腺が残っているとは思いますが、今あなたに必要なことは、自分はもう大丈夫だという「自信」をもつことです。
そのためには、あなたの「鼻」で左右を比較することです。
再手術した側と未手術の側をあなたの鼻で嗅ぐことで、ワキガというものが完全に100%完治できるものであるという確信をもつのです。
あなたには、今までのように人の鼻を気にした生き方ではなく、自分の嗅覚を信頼したあなたらしい人生を送ってほいしと思います。
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