投稿者名:ベッキー
タイトル:ワキの手術後、首のまわりが臭うようになりました
五味先生、僕は1年前に某美容外科でワキガの手術を受けました。手術後半年くらいから、なんだか他の場所(首とか?)が汗かくと臭ってるみたいなんです。自分でも感じるときがあるし、他人にも言われるし・・・。 最近は腋の臭いもしてきました。 どうしたら治りますか?すごく真剣に悩んでいます。
投稿者名:五味院長
タイトル:嗅覚の意識性(志向性)について
ベッキーさん。 腋の手術後に他の場所でニオイを感じることと、手術との関係性について、この問題の本質をを整理し、わたしの考えを説明しておきましょう。 その前に確認しなければならない前提があります。 それは、わたしが、過去に何度も何度も繰り返し述べている、「手術の適応条件」をあなたが満たしていたかどうかです。 その条件とは、 (1)本当にわきが体質であること(わきがの診断条件があること)。 (2)アポクリン腺とエクリン腺のニオイの違いが明確に区別出来ること(逆に言うと、他人の態度や言葉から対人関係的に体臭を気にしている人でないこと)。 (3)本人が真剣に悩んでいること(わきが臭や多汗が解消することで将来前向きな生き方ができること)。 以上の条件に適応していない人を手術をしても、エクリン腺は残存しているわけだし、人の態度が変わるわけではありませんから、手術後必ず「まだ臭う気がする」「他のニオイがする」などと訴えて、その人の悩みは決して解消ないでしょう。 このようなことが多いのは、キチンとした診断をしないままに、適応条件のない人を安易に(時には体臭の悩みの本質に無知なために、また時には営利主義で)手術をしてしまう場合です。 あなたが不幸にしてこのケースにあたるなら、もう今回の問題とは別の次元の話となります。 以上の条件が満たされているという前提の上で、「腋の手術が他の場所の臭いの原因となるのか?」という疑問にお答えしましょう。 わたしの答えは、「イエス」でもあり「ノー」でもあります。 まず「ノー」の根拠です。 腋の手術は、汗腺に対する手術ですから、神経ブロックのように神経系を直接扱うものではありませんので、手のひらの汗と代償性発汗のような因果関係は「医学的」には証明できません。 また、臭いの原料を作る組織そのものを摘出するのですから、その原料が何処か他の場所に移動して、そこから臭いを出すというようなことも「医学的」には証明できません。 また、腋のアポクリン腺を摘出したことで、本来アポクリン腺が存在しない場所にアポクリン腺が新生したり、瘢痕化していたアポクリン腺が活性化するなどということも「医学的」には証明できません。 さらに、体温調節に関係していないアポクリン腺が摘出されたことで、体温調節のためのエクリン腺が活発化するなどということも「医学的」には証明できません。 このように、原因と結果との明確な因果関係が証明できないのですから、術後の臭いの原因をその手術に「医学的」に求めることは不可能なのです。ですから、西洋医学を学んだ医師が、このような問題に関心をもつことは考えられませんし、手術後の臭いの原因を研究解明しようと志す医師も今後ともでてこないでしょう。 しかし一方で、手術後の臭いで悩む当の本人にとっては、「証明できないから説明ができない」ですまされることではありません。 なぜならば、手術後にニオイを気にしている人は、ニオイが気になることは「事実」だし、実際そのようなニオイを嗅ぐことができるのも「事実」なのですから。 彼らは別にありもしない嘘をいっているわけではありませんし、なにも慰謝料のようなものを請求しようと訴えているわけではないのです。 彼らは、純粋に「ニオイ」を感じているのです。 たとえ医学的には証明や説明ができなくても、わたしが「イエス」と答えたくなるのは、このためです。 では彼らはなぜに「ニオイ」を感じてしまうのか? わたしは次のように考えます。 それは、手術によって体のどこかから、例えばイソ吉草酸のような体臭成分が強く出るようになったためではありません。実際にそのような人を非常に感度のよいニオイセンサーで測定しても通常以上の体臭は検知されません。(それでも、当の本人はなんらかのニオイが出ているはずだと必ず主張するのです。そこに「体臭の問題」の別の本質があるのです。) 別の本質は別にして、今回の議論の本論は、臭いを感じるのは、「ニオイを出す主体の変化ではなく、ニオイを感ずる嗅覚の側の変化に基因する」という、当の本人には到底受けいれることのできない結論なのです。 嗅覚には、「嗅覚の順応性」という特徴の他に、ニオイに対する意識の志向性(方向性)の変化がニオイの感じ方まで変化させるという「嗅覚の意識性(志向性)」という特徴があります。 つまり、あるニオイはその主体に意識が向かえば、向かうほど、ニオイに対する識別力が強くなり、ニオイをより強く感じるようになるという性質があるのです。 例えば、道端に咲いている野の花でも、何か他のことを考えて歩いていたら、その花の匂いは気づかないでしょう。しかし、フトその花に目がいって「きれいだな」と意識した途端、なんともいいようのない良い香りがしてくるものです。 匂いとは、嗅ごうとしない限り、脳の嗅覚野にニオイとして意識にのぼらないことが多いのです。 逆もまた真です。 ニオイとは、その主体に意識が向かい、嗅ごうとすればするほど、通常なら感知されない程度のニオイの強さでも、明確に識別されるようになるのです。 この事実は、手術後のニオイが気になる人にも当てはまります。 今まで腋の臭いに神経が集中していた人が、腋の臭いが解消したことで、今度は腋から他の胸や首や頭皮なのどに意識が向かうことはあるでしょう。 美容外科領域で、目の手術後、今度は鼻が気になり、鼻の手術後は皺が気になるというように、手術を何度か繰り返す患者さんがいますが、臭いについても同様な人がいても不思議ではありません。 いわゆる「臭いのミュンヘン・ホイザー症候群」です。 ミュンヘン・ホイザー症候群は、医療的なアプローチだけでは決して解決できないでしょう。 なぜなら、意識の志向性を決定するのは、意識自体だからです。意識とは、水が上から下に流れるように、関心に向かって流れて行くものです。 その人の意識の志向性は、その人がどのようなことにより関心を抱くかというその人の人生観に依存するのです。 これはもう我々医療者のかかわれる分野ではありません。 あなたの人生観、つまり「世の中には、臭い以外にも大切な価値があるのだ」と気づき、なにか他のことに「関心」を向けるのはあなた自身がどうあるか、どうありたいか、どうあるべきか、というフィロソフィーの問題だからです。 これ以上の説明はもう不要でしょう。 最後に一つだけ、わたしからアドバイスがあります。 それは、わきが手術は、前述の手術の適応条件が一つでも欠けている人は絶対に受けるべきではないということです。 また、手術に少しでも不安のある人は、納得の行くまで医師と相談し、心から信頼できると確信をした上で受けるべきです。簡単に手術を薦めるような病院なら、とりあえず一旦家に帰り、もう一度、自分の人生にとって真に手術が必要かどうかをじっくりと考える時間を持つべきでしょう。 ベッキーさん。あなたに足りなかったものは手術前に、手術後の自分のあるべき姿をじっくりと「考える時間」だったのです。 わたしたち医療者に求められるのも、たとえ人生観そのものには立ち入ることは出来なくとも、手術の本当の意味について「考えるヒント」を与えてあげることなのかもしれません。
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